芥川賞の本はなかなか重版しない理由
久しぶりに文芸担当という奴になったのだが、
芥川賞を獲った沼田真佑さんの『影裏』が、
初回の配本はそこそこあったのものの、いくら発注しても重版分が待てど暮らせどやってこない。
割と売れているだけに残念だ。
『影裏』に対する出版社の期待の低さとみていいのだろうか。
それだけ期待されていないと逆に読みたくなってくるのが「あまのじゃく」の嫌なところで(笑)、『影裏』が全文掲載されている「文藝春秋」9月号を買って読んでみた。
私は小説をあまり読まないので、素人のような感想だけど、
LGBTとか相互会の話とかおもしろくなりそう!と思ったらはぐらかされ、肝心なところの表現がどうにも間接的でもどかしかった。
さらに私にとっては難しい漢字が多く、読み方が分からず頭に入ってこないところがあった。
平たくいうと「ザ・純文学」作品であった。
『影裏』の発行部数は初版4万部、2刷5,000部、3刷1万部だそうだ(8/16現在)。
他の芥川賞受賞作もあまり変わらないようで、だいたいが初版4万部で重版で1万部という感じであった。
どうやら『影裏』の発行部数が少ないのではなく、「純文学」のマーケットが4~5万人というだけの話であった。
初版6万部、2刷4万部、3刷5万部、4刷10万部…と重版部数は倍倍ゲームのように増えていった。
『コンビニ人間』や『火花』のように普段本を読まない人にも届くものならば、おもしろいほどの重版ラッシュとなる。
発行部数が本のおもしろさを決めるわけではないが、書店が売りたくても商品がなくては売ることができない。
最近SNSで話題になって書籍化というパターンが多いが、昔ながらの文学の世界ではまだ、売れるか売れないかは出版社次第なのである。
*ちなみに対象が純文学の「芥川賞」に対して、エンタメが対象の「直木賞」の方が売れゆきはよい。
今回直木賞を獲った佐藤正午さんの『月の満ち欠け』は出版元が完全買切の岩波書店にも関わらず、受賞後の重版は8万部だそうだ。